創業融資の申込みをする際には、開業する事業内容の計画や事業主の略歴等を書いた創業計画書を提出する必要があります。
これは日本政策金融公庫、制度融資の信用保証協会ともに求められますので作成します。
創業計画書の作り方
開業時の事業計画書を創業計画書といい、なんで事業を始めたのか、どうやって事業を継続していくのか、その為に必要な能力や資格を持っているのか等を記載していくものです。
それをもとに担当の方が内容を確認し、融資の判断材料の一つとします。
考え方としては、融資してくれる先が求める内容に対し的確にこたえ、余すことなく自分のアピールポイントを明確に伝えることが重要です。
日本政策金融公庫の書式で説明していきますが、制度融資も基本的には内容は変わりませんのでご確認ください。
それでは中身を見て参りましょう。
創業の動機
創業の動機欄で求められているのは次のものです。
- どんな目的があって何をやりたいのか。
- 思いつきではなく以前から考えていたものなのか。
- 経営者としてのスキルは身についているか。
- 創業に対する周囲の理解はあるか。
- 立地を選んだ理由は。
などの内容にこたえていきますが、それには経営理念が基となっていることが重要です。
経営理念
経営理念では、何を誰の為に行いたいのかを明確にして、将来どうなっているかのゴールを設定します。それをもとに創業の動機を書いていきます。
創業計画書では、5年10年先といった遠い将来よりも半年、1年後にどういった結果がでているかということを説明しなくてはなりません。
ここでは経営理念をそのまま書くのではなく、どちらかと言うと具体的なターゲットがある程度明確になった経営戦略に近いものが適切となるでしょう。
そこで経営戦略を立てる際に、SWOT分析を利用して行っていきます。
SWOT分析
SWOT分析は大きく内部要因と外部要因に分け、さらに内部要因を強みと弱みに、外部要因を機会と脅威の4つの項目を使って行う分析ツールです。
色々な場面で使用されますが、扱いやすいので経営戦略を立てる際にもよく使われます。
それぞれの項目に自分や自店の強み・弱みと自分や自店を取り巻く外部環境を書き込んでいきます。
さらに書き入れた内容どうしをかけ合わせてクロスSWOT分析を行います。
強み×機会は自店の強みをチャンスにどう活かすか、といったことを4つの項目すべてで行います。
市場調査
説得力を持つ資料づくりには、同時に市場調査も必要になってきます。
WEBサイトや書籍から統計資料を大量に読みこんで結論を出すという順番で行うと大変時間がかかってしまいます。
ご自身が仕事やプライベートで体感的に感じたことから仮説を立てて、その裏付けになる資料を探す形の方が行いやすいと思います。
どちらにせよ、細かいデータは最終的には実測することになりますので、ここでは大枠を補強する材料探しとなります。
統計資料の数値を創業計画書で使う場合は、必ず出典として出典元の名前と統計資料名を記載します。
自分の感覚だけで記載されている内容と統計データがある場合とでは説得力が変わってきますので、できる限り調査するようにしましょう。
創業計画書にはスペースの都合上、統計データの調査内容を盛り込みづらいと思いますので、後程お話しする店舗前の調査結果と共に別紙でまとめると良いと思います。
分析を終えたら、改めて創業の動機を記入していきます。
融資判断の材料としては熱意と人柄が重視されますので、いかに熱い思いを持ってどういうことやりたいのか、そしてその為にどういった準備をしてきたのかを、融資担当者に伝わるように書き込みます。
経営者の略歴等 事業経験
この欄で求められるのは次のような内容です。
- 勤務経験は開業する(した)事業と同種のものであるか。
- 勤めていた時代の職務内容や実績はどういうものか。
- 勤続年数が短い期間で職種を変えていた場合、その理由を説明できるか。
- 過去に事業の経営経験があり、廃業していた場合はその要因が分析され説明できるか。
勤務経験は実務が遂行できる能力があり、事業を継続とて行っていく力があるかを判断する材料とされます。
経営者が開業する事業と同じ内容の業種を経験していないと、たとえ自己資金が基準を満たしていてとしても融資が下りるのは難しくなります。
ここでは、勤務内容についても漠然と働いていたというのではなく、経営に近いポジションにいた、人材のマネジメントをしていた、仕入れの目利きができ人脈もあるなどプラス材料となることをアピールしましょう。
もし別の業界から飲食店を始めたい場合は、できれば3年程度は開業予定の業種で経験を積んだ方が融資判断の評価が上がります。
過去に事業経営を行っていた経験がある場合、その事業が廃業してしまったとしても、廃業につながった要因を分析し、改善したことが次に活かせるのであれば問題ありません。
取扱商品・サービス
こちらには次の内容を書いていきます。
- 商品・サービスの強み・セールスポイントは何か。
- 他に強みとなるものは何か。
- 沢山の店がある中で自店が選ばれる理由とは。
- 店のコンセプトとあった商品・サービスになっているか。
先に行ったクロスSWOT分析と共に6W2Hというフレームワークを使うとやりやすいです。
項目 | 内容 | 例 |
Who(誰が) | 自分・自店 | 自店名 |
Whom(誰に) | 具体的に絞り込んだ顧客ターゲット | ○○駅オフィス街の30代ヘルシー志向の女性 |
What(何を) | 商品・サービス | 日替わりビーガンメニュー・平日5日間の総カロリーと栄養素表示 |
Where(どこで) | 提供する場所 | ○○駅オフィス街近くの繁華街 |
Why(なぜ) | 開業する理由 | 多忙な美容と健康を意識したランチの選択肢がない30代女性のニーズに応えるため |
When(いつ) | 開業日・日時・曜日 | 4月新規オープン |
How to(どのように) | 自店独自のノウハウ・営業方法・宣伝方法 | 海外のビーガンレストランで勤務していた経験を活かしたメニュー作り・内装・仕入先の確保により行っていく |
How much(いくら) | 経費・収益 | ○○万円の初期投資・○○万円の運転資金・○○万円の売上・利益 |
自店の商品・サービスの強みを問われているのですが、強みは世界の一番である必要はありません。あくまでも競合となる店舗との比較で相対的に強ければよいのです。
そして大事な部分は、自分が強みを決めるのではなく決めるのは顧客だということです。
いくら自分でこれはいいものだと思っても、顧客が良いと判断しなければそれは強みとはいえません。顧客の視点に立ってセールスポイントを記入して下さい。
店のコンセプトに合ったものが提供できるかは、誰に対してという部分が明確になっていることが必要です。
例えば、高齢の方に対して商品を提供しようと考えた場合、高齢の方に幅広く無難に万人受けするものを提供するのか、高齢者の中でもパワーがある肉好きの方といったターゲットを絞ったものを提供するのかは、場所やどのような層が商圏を構成しているかによって変わってきます。
ですから誰に対して何を提供するかは、はっきりと顔が浮かべられるようになるぐらいまで相手を見定め、その相手に何を提供するかを決めておきましょう。
競合・市場など企業を取り巻く状況の欄に、大きな社会情勢も大事ですが、自店に直接影響を及ぼすという範囲にはリアリティがありますので、そういったものを書いて行きます。
取引先・取引関係等
この欄には次のことを考慮した上で該当欄に書き込みます。
- 顧客ターゲットが明確となっているか。
- 出店の予定地近くの住民の特性やライフスタイルを把握しているか。
- 出店予定地は新規客(ターゲット顧客層)を獲得しやすい場所にあるか。
- 予定仕入れ先は信頼できるか。
6W2Hの中の「Whom(誰に)」で顧客として選んだ対象を販売先の欄に書いていきます。どういった層がターゲットになっているかをわかるようにします。
仕入先は元々の関係先であれば、それも記入します。
従業員
こちらは、法人の場合は常勤役員の人数を記入し、個人の場合は空欄にしておきます。
従業員数は常勤役員以外で、3ヵ月未満の方を除いた従業員の人数を記載します。
その内の、家族と家族以外のパート・アルバイト従業員の人数をそれぞれ書きます。
注意するのは、事業に見合った人数であるかという点です。多すぎれば人件費がかさんでしまいますし、少なすぎればオペレーションが回らなくなり顧客満足度が下がる恐れがあります。
この欄は妥当な従業数かどうかが判断されます。
従業員の確保については、開業当初は身内に協力してもらうことも多いと思いますが、それは周囲の理解を得られているということでプラスの評価となる可能性があります。
お借入の状況
現在のお借り入れの状況を書き入れるだけですので難しくありません。理想は何も記入されていない状態が良いですが、偽って書いてもわかってしまいますので事実を記載しましょう。
必要な資金と調達方法
この欄では次の事を踏まえた上で資金計画を立てて、金額を記入していきます。
必要な資金
- 家賃・保証金は出店予定地の周辺相場と比較して高くはないか。
- 飲食店工事の実績がある複数の工事業者から、相見積をとって相場観があるか。
- 設備資金と運転資金の全体を算段しているか。
調達方法
- 自己資金はコツコツと貯めているか。
- 自己資金が溜まっていく過程は記帳されているか。
- 計画に対して自己資金の額は適切か。
左側の欄に必要な資金と見積もり先、右側の欄に資金調達方法の内訳を書いていきます。
合計は左右とも同じ金額となります。
設備資金の欄には、スペースが限られていますので、金額が大きいものを中心に書き、比較的少額のものは「その他設備費」「その他什器備品費」などとまとめて記入します。
運転資金の方は、一般的に3ケ月分程度は見ておきます。
調達の方法は、自己資金の金額が借入金の総額の10分の1から申込みはできますが、出来るだけ多い方が評価は高まります。
借入される方の自己資金の割合で多いのは、2~3割程度となっています。借入金の3割程度あると融資の確立が上がります。
もちろん事業の計画全体を総合的に判断された上で融資の可否が決まりますので、これより少なくても下りることもありますし、逆に融資金額と同額の自己資金を用意してもダメなこともあります。
事業の見通し(月平均)
事業の見通しは次の事を踏まえて数字を書き入れていきます。
- 売上高の予想に対して根拠が示せるか。
- 収支計画の売上と経費の額が適切か。
- 借入の返済計画は無理がなく妥当か。
こちらの表は公庫の創業計画書の書式と同じものです。それぞれに計画した金額を該当欄に記入していきます。
創業当初 | 軌道に乗った後 | ||
売上高① | 万円 | 万円 | |
売上原価(仕入高)② | 万円 | 万円 | |
経費 | 人件費 | 万円 | 万円 |
家賃 | 万円 | 万円 | |
支払利息 | 万円 | 万円 | |
その他 | 万円 | 万円 | |
合計③ | 万円 | 万円 | |
利益①-②-③ | 万円 | 万円 |
事業の見通しの計算
まずは次の算式を使って売上の予測をします。
予想売上高(月間)=客単価×席数×満席率×回転数×月間稼働日数
例.客単価(昼)800円 (夜)3000円 席数30席 満席率0.7
回転数(昼)2回転 (夜)0.8回転 月間稼働日数25日
{(800円×30席×0.7×2回転)+(3000円×30席×0.7×0.8回転)}×25日=210万円
満席率とは全席に対して、満席時に席がどれだけ埋まっているかの稼働率で客席稼働率ともいいます。カウンターとテーブル席の割合や相席ができる業態かによって変わってきます。
算式 満席率(%)=満席時の人数÷総席数×100
実測調査
頭の中だけで決めた入客数では根拠のない数字となってしまう為、候補となる店舗前の通行量を実測調査し、その内ターゲット顧客がどれくらいいるか確認します。
昼と夜のピークタイムを中心に、必要であればアイドルタイムも計測します。
営業時間をフルに張り付いたら一番正確ですが、そこまでしなくても例えば11:30 12:30 13:30 と30分ずつ定点調査を行います。
あとはそれぞれを2倍にすれば1時間ごとの数値がでます。
余り短いと場所によっては電車の乗降のタイミングなどで誤差が出ますので、各時間30分程度は時間を取ります。
これを平日の昼夜、週末の昼夜、雨の日、大学生がターゲットでしたら休校日など業種・業態に合わせた設定で行います。
競合調査
そして、出店予定地前の通行量と共に、複数の競合店へ実際に出向き実測調査します。
昼夜のピークタイム、アイドルタイムそれぞれの競合店の入客数を調べます。
競合店前の通行量がわかれば入店率が割り出せますので、その数値を自店前の通行量に掛けると入客数の予測ができます。
この時に注意するのは、自店とできるだけ条件が近い店舗を選定することです。
説得力を持つ売上予測ができたら売上高の欄に記入します。
売上高などの記載
創業当初は1~3ヵ月程度、軌道に乗った後は半年~1年程度を目安にしてそれぞれ書きます。
軌道に乗るまでに数年といったスパンがあると、融資担当者からリスクがあると判断される可能性が高まります。1年程度を目安に計画をしましょう。
売上原価の欄には、売上の計画が立つと販売量が見えてくるので、仕入れ額の計算をしてその数字を書きます。
その他の経費には、該当欄に数字を入れていき合計額を書き入れます。
個人事業の場合は人件費に事業主の方の分は含めません。
支払利息は年率で出した金額を12ヵ月で割った数字で大丈夫です。
以上の数字が埋まったら売上高から売上原価と経費の合計を引いたものが利益となりますので、書き込んでください。
返済に充てる財源は当期の利益と減価償却費を合わせた部分となります。返済ができない収支計画では、当然融資は下りませんので計画を見直す必要が出てきます。
無理な部分がない計画となるまで練り直しましょう。
右側の欄には、それぞれの数字がどういった計算で出されたものか根拠を書きます。
スペースが限られていますので、別紙に市場調査の結果など、まとめたものを作っても良いでしょう。
アピールが必要
最後の自由記述欄はアピールをするスペースです。今までの欄では書ききれなかったことを、熱い気持ちが伝わるように記載しても良いと思います。
スペースはなるべく埋めるようにしましょう。
以上、創業計画書の書き方を説明しましたが、創業融資は担保と保証人がいらない制度です。
融資担当者に対し、経営を安定させて返済ができ、事業遂行能力もあるということを書面と面談で伝えなければなりません。
その為には、計画をしっかり立てて根拠のある数字とする必要があります。
融資ともに事業の成功には不可欠ですので、いろいろとやることがあり大変だとは思いますが、練り上げるようにして下さい。